「けじめ」をつけに……〈加奈崎芳太郎のライブ〉その1
1970年代に「古井戸」というフォーク・デュオが日本の音楽シーンで活躍していた。
野太く圧倒的な声量を持つボーカル・加奈崎芳太郎と、R&Bなどを背景にした音楽性と繊細な詩的センスで曲を生み出したリードギター・仲井戸麗市の二人組だ。
仲井戸麗市は、古井戸解散後にRCサクセションの正式メンバーとして参加し、80年代の音楽シーンで活躍したので、見れば分かる人もいるだろう。
♪大学ノートの裏表紙に さなえちゃんを書いた〜
というフレーズの『さなえちゃん』が72年頃にスマッシュヒットしたので、その音源を聴くと思い出すという人もいるかもしれない。ちなみに、この曲を唄っているのは“CHABO”こと仲井戸麗市だ。
麻雀の話を書いたこないだの記事でリンクしていたのだが、数年前に『闘牌伝説アカギ』(原作:福本伸行)というアニメのオープニングソングに、『何とかなれ』という古井戸の曲が使用されて、最近の若い子たちの中で再評価されたようだ。
こうして古井戸を説明する時に『さなえちゃん』を紹介するのは、ちょっと躊躇するところで、本当は『ホスターカラー』あたりを聴いてもらった方が初期の古井戸らしいんだけども、まぁその辺のことを話すと長くなるので置いといて……、
とにかくその古井戸のメインボーカル・加奈崎芳太郎のライブが先週の土曜日にあったので、数年ぶりに生唄を聴きに大森まで足を運んだ。
この日のライブは、「古井戸らしきものを歌う」というのがテーマになっていたこともあって、当時のファンを含めてたくさん人が集まり、小さなライブハウスの会場は満員状態だった。
加奈崎芳太郎といえば、渋谷の山手教会の地下にあった伝説的な小劇場「渋谷ジァン・ジァン」で、約30年間、年に4回ずつ、同劇場が閉鎖するまで定期的にライブを続けていたのだが、80年代の一時期は客が数人しかいないときもあった(ちなみに、ジァン・ジァンは自主企画のホールなので、予約して金を払えば誰でも出演できるという劇場ではなく、何十年も定期公演を続けることが許されたのは、加奈崎芳太郎の他に、美輪明宏、イッセー尾形、永六輔やおすぎのトークライブ、津軽三味線の高橋竹山など数名だけ)。
ホームグラウンドであったジァン・ジァンの閉鎖後、長野県・諏訪に住まいを移してからは地元を中心に活動を続けており、東京でライブを観られる機会も随分と減ったためか最近は客の入りも上々のようだ。
久しぶりに聴いたライブは、相変わらず長いMCと圧倒的な声量が健在だった。
「古井戸らしきものを歌う」と客を呼んでおきながら、アコースティック・ギターではなくストラト(エレキ・ギターの名器)をピックを使わずに指で引き続けるという“ひねくれ方”も健在(笑)。
さすがに高音はつらそうだったが、それでも60歳とは思えないほどの音圧を感じさせてくれるボーカルはさすがだ。
古井戸解散後、もし周囲の勧める歌謡曲路線(例えばアリス解散後の堀内孝雄のように)にいけばメジャーシーンに残れる可能性もあっただろう。何と言っても歌が上手いから。実際、アルバムの変遷を見れば分かるように、加奈崎本人も周囲に促される形で妥協せざるを得なかった時期もあった。
もっとも本人が歌謡曲路線に満足いくはずもなく、メジャーシーンとかアルバムの売り上げとかとは縁の遠いミュージシャン街道を突っ走ることになる。
その反骨的な心意気が、60歳になってもなお「古井戸をストラトで」というズテージングに繋がっているんだと思う。
ライブに行く前の僕は、「エレアコ(エレキギターとアコースティックギターの間の子のような楽器)でやるのかなぁ? ハミングバード(ギブソン社のアコースティックギター)でやってくれないかなぁ」ってちょっと心配だったんで、その裏切りに「さすが、加奈崎!」と気持ちいい思いがした。
この日のセットリストはメモしていないので、どの順番で何の曲をやっていたかは書けないんだけども、終盤に『いつか笑える日』『陽炎』を聴かされた時には、思わずジーンと来てしまった。
これらの曲に対しての加奈崎芳太郎の気持ちも理解しているつもりだし、自分にとってはすごく好きな曲だし、このところの自分の色々な気持ちが心の琴線に触れてしまったんだ。
来週の土曜日(2009年7月19日)には東京の福生、翌日曜日(2009年7月20日)には荻窪、そして、8月29日(土)に加奈崎芳太郎が現在住んでいる諏訪の近く、長野県岡谷市で規模の大きなライブが開催される。
もし興味のある人は、ぜひ足を運んでみてください。
詳しくは、加奈崎芳太郎の公式ファンクラブのページから、左側のメニューバーにある「Live」をクリックすると、詳細が掲載されています。
8月29日のライブについては、→こちらのページ←に詳しく掲載されています。
一旦アップして読み返したら、とんでもなく長いんで、とりあえず2回に分けることにしたんで、つづく……。
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