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映画より舞台版がお薦め(映画「鈍獣」を観て)


久しぶりに映画の感想でも……と思って、前はいつに書いたんだろうと思ったら、まともな映画の感想は、2005年12月5日付け『イン・ハー・シューズ』まで遡ることになってしまった。
およそ3年半振りということになる。

何せ、3年前に比べれば新作の映画を観ることが極端に減った。その頃は月に3〜5本以上は観ていたし、試写を含めれば十数本ということもあるペースだったんで、書くこともいくらでもあったんだけども、この数年、新作の映画は平均すると月に2本ペース、しかも年末に駆け込みでシネコンや二番館などで帳尻合わせをするもんだから、実際には映画を観ない月も多くなった。

ということで、とくにおススメするわけではないが、久しぶりに一番直近で観た映画『鈍獣』の感想──

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ある田舎町に、失踪して行方不明になった作家(浅野忠信)を探して、担当編集者(真木ようこ)がやってくる。
その町のホストクラブで彼女を待ち受けていたのは、ホストクラブのオーナー兼ホスト(北村一輝)、作家やホストの元級友(ユースケ・サンタマリア)、ホストの愛人(南野陽子)、ホストクラブのホステス(佐津川愛美)の4人。
その4人から、作家の居場所を聞き出そうと話を聞くと、次第に作家と4人たちの関わりが明らかになっていき、そして、作家が行方不明になった原因が明らかになっていく……。

というミステリー仕立ての映画だ。

さてこの映画の、正直言って、どう評価していいか迷う微妙な作品だ。

実は、この映画は宮藤勘九郎の脚本なのだが、2004年に舞台で上演した作品を、改めて宮藤勘九郎が映画用に脚本を仕立て直して映画化したものだ。
僕は舞台でも観ていて、さらにその舞台のDVDもある。

まず、映画化するために、舞台よりも設定を細かくして分かりやすくなっている。そのお陰でたしかに分かりやすくはなっているが、舞台で効果的だった「不思議な空間」としての怪しい雰囲気はなくなってしまった。そのためか、新たに追加された「相撲の町」というキーワードで誤摩化してはいるが、あまり効果的だったとは思えない。
また、分かりやすく場面を切り換えていくことによって、確実にテンポが悪くなっている。舞台の方が30分以上も尺が長いはずで、しかも幕間が入るにもかかわらず、映画よりもテンポが良く感じるのは、それだけ映画版のテンポが悪くなっている証拠だ。

舞台作品を映画化する際によくあることだが、映画用に設定を変更することによって、決定的に面白みがなくなる場合がある。もちろん逆もあって良くなる場合もあるが、多くは舞台が素晴らしいからこそ映画化されるので、映画化したことでより良くなることは少ない。今回の作品でも、明らかに舞台版の脚本の方が優れているといわざるを得ない。
モノを創っていると、文章でも立体物でも、いじり過ぎていくうちに、自分の中ではどんどん良くなっていると感じながら、実際には客観的な視点からどんどん離れていってしまい、良さがなくなっていくことがある。そういう感じがする。

例えば、作家やホストの「級友」(映画ではユースケ・サンタマリア、舞台では生瀬勝久)の職業が、映画では登場時から明らかにされているが、舞台では終盤まで明らかにされていない。これがこの男の気持ち悪さを効果的に演出しているが、最初から明らかになっては、単なる不真面目な男でしかなくなってしまう。
また、舞台では、その存在だけが紹介されながら一度も舞台に現われることのなかった謎の店員が、映画版では登場する(キャストは黒人演歌歌手のジェロ)。こうしたキャラクターは、『刑事コロンボ』の「うちのカミさんがね……」でお馴染みであり、三谷幸喜がよく使う「赤い洗面器の男」も同様で、いつまでも登場しないからこそ面白い。単なるマクガフィンとしての役割だけじゃなく、物語の面白さを一味付け加えているのだが、それも登場してしまっては効果が薄くなる。

キャスティングも微妙だ。
映画のキャスティングも悪くないが、舞台版のキャスティング(とくに、作家=池田成志、ホスト=古田新太、級友=生瀬勝久)がすこぶる良かっただけに、見劣り感は否めない。

オープニングのお気に入りのシーンがなくなってしまったのは仕方ないが、ラストシーンの締め方も舞台版の方が面白い。

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※舞台版に興味のある人は、画像をクリックすると
「イーオシバイ」にジャンプします


舞台版を見ずに映画で初めて観た人の感想は、割と好意的かもしれないが、舞台版を観た後だとどうしても比べてしまって評価が低くなる。

僕は、とくに宮藤勘九郎を買っているわけではないが、けっこう注目はしている。舞台でいえば、今年も劇団☆新感線の舞台『蜉蝣峠』で宮藤脚本の舞台を観ているし、彼の書いた映画も7割方観ていると思う。正直言って、舞台も映画もグダグダ感が強くて、とくに終盤になると脚本を投げ出すようなところも目立つことが多いので、舞台と映画についてはそれほど評価していないけども、『メタル・マクベス』はシェイクスピアを解体して再構築した作品としては、割といい出来だと思う。また、ドラマ脚本家としてはとても評価しているし、多くのドラマが面白いと思う。
その僕が、宮藤勘九郎の舞台脚本としてはもっとも高く評価している作品が『鈍獣』だった。

これから『鈍獣』を観るならば、映画版よりも舞台版のDVDをお薦めしておくし、もし映画版を観た後だとしても、舞台版DVDも観て損はないと思う。

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ということで、久しぶりの映画の感想だったが、映画も舞台も両方観るという人は少ないだろうから、あまり参考になるような感想になってないかもしれない。

このブログを書き始めた頃は、ちょうど仕事がスランプの頃で、仕事で執筆の依頼が来ても書けないで断っていた時期だった。だからブログで好きなことを書いていくうちに、リハビリになるかと始めたわけだが、映画の感想を書くのはちょうど良いリハビリだった。いくつかの制限を自分の中で設定しておいて、強いプレッシャーになる「タイムリミット」「字数」は気にせずに、好きなタイミングで好きな字数だけ書くことで、徐々にスランプから脱したのだった。が、それと同時に、映画の仕事も再開したということもあり、このブログでは書かない日が続いた。
そういえば最近、映画の仕事もあまりしていないし、今年からしばらく歌舞伎や舞台鑑賞は少しペースを落とすつもりなので、せめて映画くらいは劇場や試写で観て、このブログでも感想を書いていきたいと思う。

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【作品名】鈍獣('09/日本/130分)
【監督】細野ひで晃
【脚本・原作】宮藤官九郎
【出演】浅野忠信、北村一輝、ユースケ・サンタマリア、
    真木よう子、佐津川愛美、南野陽子、ほか
【公式サイト】http://donju.gyao.jp/

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コメント

こんにちは。

小さな旅に出かけておりまして、
お返事の方が、すっかり遅れてしまいました。
「シネマのすき間」の方も読んでいただいているとのこと、
感謝の気持ちでいっぱいです。

また、この作品に関しましては、
知らないことをいろいろと教えていただき、
ほんとうにありがとうございました。
個人的には楽しめるところも随所にありましたが、
それでも爆発的にオモシロいというわけではなかったので、
おそらくお芝居の方はけっこういけるのではないかと…。

今回、レビューを拝見して、
お芝居の方も観てみたくなりました。
なんと言ってもキャスティングがいいですね。

これからもよろしくお願いいたします。

投稿: えい | 2009年6月17日 (水) 22時10分

>えいさん

こんにちは。
わざわざお越しいただいちゃいまして、恐縮してます。ありがとうございました。
こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします。

投稿: 真公 | 2009年6月18日 (木) 16時11分

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» 『鈍獣』 [ラムの大通り]
----『どんじゅう〜』、ニャにそれ? 「読んで字の通り。 世界一、鈍い男のお話。 なんと言っても、殺しても殺しても死なないんだから?」 ----そんなこと、あるの? 「まあ、映画だからね。 ていうか、 もともとこれはクドカンこと宮藤官九郎の伝説の舞台。 2004年に、岸田國士戯曲賞を受賞しているんだ」 ----へぇ〜っ。どんなお話ニャの? 「すべてが相撲中心の田舎町(ここからしてすでにクドカン)。 そこに失踪した作家・凸川(浅野忠信)を探して、 担当編集者の静(真木ようこ)がやってくる。 たどり着... [続きを読む]

受信: 2009年6月16日 (火) 22時14分

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