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オッケー係


以前も書いたかもしれないが、職業を尋ねられたら「出版の編集をしています」と答えている。
ただ、もともと広告の仕事をしていたんで、今でも少しだけ広告の仕事が入ってくる。

広告の場合、ディレクション、デザイン、コピーライティングとか横文字の業務となることが多いが、ディレクションは出版で言えば編集だ。
出版の編集も「雑用係」と言い換えることができるほど雑務が多いが、広告のディレクターというのも雑務が多い。雑務だけでなく、実に幅広い仕事を依頼される。

もちろん僕の場合は紙媒体の広告制作を依頼されることが多いが、それ以外に、ある時はイベントの現場の仕切り役だったり、ある時は雑誌の撮影でスタジオやロケ先の現場監督だったり、そのほか諸々、出版の編集のように打ち合わせやデスクワークに関連した雑務だけでなく、現場に出ての雑務が多い。
こないだの記事でも「一時期、音楽プロモーションの仕事をしていた」と書いたが、これだって、実際にはレコーディングのスタジオで延々と座ってお茶お濁していたり飯の用意をしたり、ライブやイベントの手配をして現場ではアーティストの世話を焼いたり、言ってみればマネージャー兼ローディみたいなもんだ(実際、あるCDのジャケットには「荷物係」とクレジットされたこともある)。

で一昨日は、仕事仲間のピンチヒッターとして、録音スタジオのナレーション録りに立ち合ってくれと急遽頼まれた。

そこで、このブログでは「活字生活」というカテゴリーで、自分の仕事や仕事仲間の作品を紹介しているが、今回は「ディレクター」という仕事の、ホンの一端を紹介したい。

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さて、今回もいつもと同様、現場に立ち合って何をするかと言うと……、あまり大したことはしていない(笑)。
一つひとつの作業に対して「オッケェで〜す」と素っ頓狂な声で現場を盛り上げる。そして、「お疲れさまぁ〜」と他のスタッフやナレーターに声をかける。

お調子者がおちゃらけているように見えるかもしれないが、実はこれ、結構重要だったりする。そして僕の「オッケェで〜す」は、結構現場を明るくしている(と思う)。

ディレクターにしても現場監督にしても編集者にしても、結局はスタッフや周りの人たちがちゃんと働いてくれないと何も出来ない。僕は、ディレクターや編集者というのは、スタッフやアーティストたちが、気持ちよく仕事を進めてくれるのようにするのが、何より大切な業務だと確信して仕事をしている。

最近は、広告はもちろん、出版界でもどっちを向いて仕事をしているのかわからない編集者が増えてきた。
最近の出版物は、普通の雑誌に見えて実は企業のプロモーションだったり、広告クライアントの意向に沿った記事の合間に編集部の好きなことを書かせてもらうスペースがあったりと、広告費の存在なしには成り立たない出版物が多い。だから広告も出版もクライアントの意向は重要になってくる。
僕は広告出身だから、今さらそれを否定するつもりなんてまったくない。広告で飯を食ってきてるんだから、クライアント様々だ。

ただ、現場に入れば別。
いい作品(=いい広告)を作るために、クライアントにご機嫌をとるよりも、現場のスタッフたちに気持ちよく仕事をしてもらう方が、結果としてクライアントのためになるはずだと確信している。
少なくとも、事前の打ち合わせになかったクライアントの急な意向を現場に押し付けるときは、クライアントに十分配慮しながらも、それでも現場のスタッフがスムーズに事を運べるように、再度段取りを按排よく組んで、いざ作業に入る時には、みんなに気持ちよく仕事をしてもらう。

だから、作業が始まってしまえばあんまり余計なことは言わず、多少の軌道修正をしながら、出来あがったものに責任を持てる仕上りになりさえすれば、あとは「オッケェで〜す」とOK係に徹していればいい。

僕の場合、ディレクターや編集者としてではなく、一スタッフとして仕事を依頼されることもあるので、そういう立場になって見ていると、編集者が迷いながら仕事をしていたり、どこを向いて仕事してるかわからないようなディレクターだったりすると、とたんにスタッフ全体のテンションが下がるのが分かるし、結果としていいものは出来あがらない。

ということで、今回も、録音スタジオのエンジニアさんや、ナレーションを担当してくれたタレントさんに気を配りながら、「オッケェで〜す」「お疲れさまぁ〜」とお調子者を演じ(?)きって、無事仕事が終わった。

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ある仕事で、途中で馬鹿馬鹿しくなって投げ出そうかと思うほど、面倒なことがあった。何人かの編集スタッフが、それぞれ好き勝手なことを言ってくるため、こちらが混乱していた。正直言うと、最後まで付き合って仕事を納めたら、スタッフ一覧から僕の名前を外してもらうつもりだった。
もちろん、そんな露骨な抗議をすれば、その仕事先から二度と仕事の依頼は来ないだろう。それでも「これが俺の仕事だって世間様に告知する気になれない」と言いたかった。

だが、仕事の終盤、「今回はご迷惑をかけてしまってスミマセンでした。本当にありがとうございました。全部終わったら、みんなで打ち上げやりましょう!」と編集スタッフの一人から言われ、深々と頭を下げられた。

だから気が済んだというわけではないが、こうやって頭を下げられれば、もう「俺の名前は外してよ」とは言えない。
少なくとも、まぁギャラも悪くないし(ここ重要)、もう一度仕事を頼まれれば引き受けるだろう。

結局、こんなちょっとした会話だけで、スタッフたちの心が晴れたり沈んだりするもんだ。
自分自身の肝に銘じるためにも、書き記しておきたい。


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