江戸っ子の会話を聞きながら鰻を楽しむ……〈色川〉
江戸っ子は口が悪い。言葉遣いが乱暴だ。しかし、品がないわけじゃないし、口汚いわけでもない。
僕自身、子どもの時分からよく誤解されてきたが、言葉遣いが乱暴でも、よくよくその内容を聞いていれば、愛嬌があり、艶のある言葉だって事が分かってもらえるだろう(僕の話にはたいして艶なんてありませんが……)。
浅草で鰻が食べたいときは、口の悪い江戸っ子のオヤジさん(大将)に会いに「色川」に行きたい。
先日、できあがった「浅草散歩ガイド」を届けに行ってきたが、そこでの会話がまるで落語に出てくる下町の風景だ。
僕 「大将、遅くなりました。ようやっと出来上がりました」
大将「おぅ、そういえば取材だか何だかって言ってたな。
ありゃ何時のことだ?」
僕 「去年の秋口でした。
すんません、本当に遅くなっちゃって」
大将「ったく、稲荷町の奴(僕の住んでいる街)は愚図だな。
で、その間、おめぇは何してたんだ」
僕 「いやぁ〜、本が出来上がらないと顔出しづらくて、
ご無沙汰してました」
大将「ってことは、ひぃふぅみぃ……、
8か月も顔だしてねーのか?
馬鹿野郎、おめぇ、普通、最低でも季節毎に顔だして、
『まだ出来てません』って報告くらいするだろうよ。
ったくよ〜、歩って来たって10分(じっぷん)か
そこらじゃねぇか」
僕 「すんません。スクーターで2〜3分なんですけど」
大将「だったら来いってんだ。
っていうかよ、何がスクーターだ。
近くなんだから歩って来やがれ。
まぁいいや、ちょっと説教してやるからそこ座れ」
僕 「いや大将、また近いうちにちゃんと来ますんで、
今日のところは……」
大将「ちっ!(舌打ち) いいから座れってんだ」
僕 「はい!」
(と、座ろうとしたとき、椅子を倒しそうになって)
大将「しょうがねぇなぁ、稲荷町は。
愚図なんだか慌てん坊なんだか分かりゃしねぇよ」
ってな具合に、カウンターの席に座らされ、江戸っ子言葉でお叱りを受けた次第。
もちろん、大将と僕の会話は、説教をされているからといって険悪だったり重たい空気に包まれていたわけじゃない。文字にすると伝わりづらいかも知れないが、こうした会話も実際に目の前で見れば、落語の世界に出てくる愛嬌のある会話だ。
満員のお客さんたちは、目の前で繰り広げられるリアルな落語ワールドを見て大喜びの様子。カウンターの隣りに座っていた常連さんに「いや〜、お兄さんもたいへんだね。でも面白かったから一杯飲め」なんてご同情いただく始末。
要するに、こうして僕を説教するようにみせて、お客さんに会話を楽しんでもらってるわけだ。粋な江戸っ子はエンターテイナーでもある。
そして一通り説教が終わると、「8か月も喰ってねーと、うちの鰻の味忘れちまうだろ。喰ってけ」と鰻重と肝吸いが僕の目の前に。もちろん、こちらがお代を払うと言っても受け取ってもらえない。この辺りに粋を感じるんだよなぁ〜。
まぁとにかく、ここの大将に会えば、本物の江戸っ子に遭遇することが出きることは間違いない。食事というのは、料理だけじゃなく店の雰囲気が大事だと思わせてくれる。この数年では、鰻店でもっとも多く通っている店。
おっと、せっかくの鰻のこと書くのをすっかり忘れてしまうとこだった。
……と思ったけど、色川の鰻のことなんて、雑誌でもインターネットでも、そこら中で見られると思うので、詳しくはそちらに任せることにしよう。簡単にいうと、タレの味は濃いめの辛口で、炭火で焼いた鰻は香ばしくて口当たりががいい。濃い味好きの僕にとってはもちろん好みの味で、浅草の鰻はこうでなくっちゃと思わせる。
そうそう、この店にカップルで行くとき、男の人に注意を一言。
間違っても「並2つ」なんて頼むと、大将から「何ぃ? お兄さん、女連れて飯喰いに来て最低の物なんて喰わしたんじゃ男じゃねーだろ。分かるか? だったらもう一回注文してみな」と、半ば強制的に「上」を注文させるかも(笑)。
まぁ、有名な鰻にしては安いので心配することもないかも知れないが、男性は一応、しっかりと財布にお金を入れて食べに行くようにご注意を。
【店名】色川 (いろかわ)
【住所】東京都台東区雷門2-6-11
【電話】03-3844-1187
↓食べログでは、ココで掲載した以外の店も紹介しています。
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