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伝え続けなければならないこと
(映画「父と暮らせば」)


今さらながら、「父と暮らせば」を見た。
区の平和イベントで上映会があったので、いい機会だから子どもたちを連れて行ってきた。

*  *  *  *  *  *  *

井上ひさしの戯曲を、黒木和雄が映画化したものだ。
最初に結論をいえば、非常に素晴らしい作品だった。

「竜馬暗殺」で僕に衝撃を与えた黒木監督は、「TOMORROW(明日)」「美しい夏キリシマ」に続くこの作品を“戦争レクイエム三部作”の完結編と位置づけている。

この映画、まず、井上ひさしの原作によるものが大きい。
舞台の設定をできるだけいじらないように、ほぼ一つの場所(かつて父と娘が暮らしていた旅館跡)だけで場面が展開する。この二人芝居という舞台設定を活かしたことで、井上ひさしの軽快な台詞廻しも活かすことになり、物語の展開に絶妙なテンポが生まれている。

さらに出演陣の演技もすばらしい。
といってもほとんど宮沢りえと原田芳雄の二人だけである。
「竜馬暗殺」以降、「祭りの準備」「浪人街」「スリ」など黒木監督とのコンビで秀作を作り続けている原田芳雄は、原爆で亡くなった父親役。彼の一人語り“福吉竹造のエプロン劇場”の場面はこの映画のクライマックスであるが、彼の演技に圧倒される。
「たそがれ清兵衛」で日本映画界の賞を総浚いした宮沢りえが娘役。僕としては、最初は彼女のベタベタした声質が気になっていたのだが、同じように感じることがあっても、話が進むうち徐々に彼女の演技に魅入らされていくことになるだろう。彼女の演技は、今年「トニー滝谷」でも見たが、すっかり安定感のある女優になったと実感する。

そして、“戦争レクイエム三部作”の完結編としてこの映画に込めた黒木監督のメッセージだ。
広島の原爆投下から3年、生き残った後ろめたさから幸せになることを拒否し、苦悩の日々を送る主人公・美津江(宮沢りえ)。父・竹造(原田芳雄)に励まされ、悲しみを乗り越え、未来に目を向けるまで4日間の物語。
原爆による被害は、生き残った人をも、いつまでも苦しめているのである。
そんな主人公・美津江は言う。

「私は生き残ってはいけねかったんじゃ。だから幸せになってはいけんのです」
「うちゃあ生きとんのが申し訳のうてならん。じゃけんど死ぬ勇気もなぁです」

*  *  *  *  *  *  *

上映前には、区内の各中学校から代表に選ばれて広島に行った中学生から、報告レポートの発表があった。その中の女子中学生の言葉が鋭い。

「アメリカや核保有国を批判し核兵器の根絶に向けてはっきりと宣言をした秋葉市長は、とても力強く見えました。それに比べて小さな声で話していた小泉総理大臣を見ていて、核兵器のない平和な世の中なんて、まだまだ実現することは出来ないのではないかと不安な気持ちになりました」
中学生にすら小泉純一郎の薄っぺらさを見抜くことができるのに、相変わらず世論調査では内閣支持率が高い。「世論」とは、中学生よりも見る目がないものなのか……


「話をいじらず、前の世代が語ってくれた話をそのまま伝えるんが、私の役目よ」

主人公の美津江が、自分の仕事である文学資料の整理・収集について、その哲学を語った時の台詞だ。
戦争を体験した世代の人たちが僕たちに伝えてくれたこと、それを次の世代に伝えるのは、僕たちが絶対にしなくてはならない役目である。

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【作品名】父と暮せば('04/日本/99分)
【監督・脚本】黒木和雄(「竜馬暗殺」'74/「浪人街」'90/「スリ」'00)
【原作】井上ひさし
【共同脚本】池田眞也
【出演】宮沢りえ(「たそがれ清兵衛」'02)
    原田芳雄(「竜馬暗殺」'74/「PARTY 7」'01)
※人名後ろのカッコ内は、その人の関連作品のお薦め作品。
【公式サイト】http://www.pal-ep.com/father/
【僕的評価】★★★★★★★★☆☆/10点満点

【追記1】
すでにDVD化、ビデオ化もされているが、全国の名画座系での上映もされている。また12月3日に調布市での上映会が企画されるなど、地域の上映会も行われている。できることなら、ぜひスクリーンで見て欲しい作品だ。
【追記2】
僕は一昨年、「美しい夏キリシマ」を観て「この映画は、黒木監督と同世代へ向けた映画であり、逆に言えば、僕やそれより若い人たちには伝わりづらい映画である」というようなことをあるところで書いた。確かにいい映画で、いかにもキネ旬が年度代表に選びそうな作品だが、2年以上経っても若い人の中に「いい映画だった」と大きな声が聞こえない(例えばブログ検索してもヒット数は少ない)のを見れば、やはり僕の感想はあたっていたということだろう。
しかし、この作品を見て改めて“戦争レクイエム三部作”を見つめると、なるほど「美しい夏キリシマ」の位置付けが見えてくると納得した。
ただし、単体としての「美しい夏キリシマ」の作品評価は、やはり高いものではないことも付け加えておく。

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コメント

【以前のコメント】
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いい映画でしたねえ (わびさび)
2005-11-20 20:17:36

私も見ました。いい映画でしたねえ。
私は、宮沢りえが見たくて見に行ったようなものなんですが。
あの人の声は可愛らしすぎて、これからの年齢ではこなせる役柄が少なくなんるんじゃないかと気になります。
原田芳雄はあんまり好きじゃなかったんですが、この映画では素晴らしかった。
最近(でもないか)見た映画の中で、ピカイチです。

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僕も宮沢りえファンなんです。 (CRAFT BOX)
2005-11-21 10:34:56

>わびさびさん

声質は気になりますね。
でも、「たそがれ清兵衛」ではあまり気になりませんでしたし(あれは岸惠子が気になりすぎたからか……)、今後の作品を見てみないと判断つきかねます。
原田芳雄については、黒田監督の「竜馬暗殺」を未見であればお薦めします。数ある“竜馬関連作品”の中で、僕がもっとも痺れた作品です。

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TBありがとうございました (みつこ)
2005-11-24 19:56:07

初めまして。
この映画、多くの人に観てほしいですね。
私も今年「トニー滝谷」とこの作品で宮沢りえの女優としての成長ぶりに驚いてしまいました。

それはそうと・・・長屋暮らしされているのですか?興味シンシンです(笑)
また遊びにきます。

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Unknown (CRAFT BOX)
2005-11-24 21:12:01

>みつこさん

こんにちは。
長屋暮らしといっても、要するに貧乏暮らしってだけです(笑)。山の手線沿線という都心の割に家賃が格安というのが最大のメリット。
でも、お隣さんご家族の会話も丸聞こえなので、当然こちらも丸聞こえ。台東区は地震の危険地帯ですし、大きな地震が来れば、このオンボロ長屋は一溜まりもありません。

またお越しください。

投稿: 【以前のコメント】 | 2008年7月12日 (土) 00時00分

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