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日本人の原風景
(映画「ALWAYS 三丁目の夕日」)

僕は学生の頃に、西岸良平のマンガ「三丁目の夕日」(小学館)を愛読していた。
子どもたちの視点で描かれた「昭和」が、現代を生きる日本人の共感を呼ぶ。そして、夕日に照らされて描かれる登場人物たちが、読み手の心を暖かくしてくれるマンガだ。

今でも連載されているそのマンガが映画化された。

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昭和33年、東京の「夕日町3丁目」が物語の舞台だ。

昔の東京のとある町で繰り広げられる人情話。
細かいストーリーを説明するほどの内容ではないので省略するが、「平板なストーリー」こそが、この映画の味になっていることは間違いない。

琴線に触れるエピソードは人それぞれ違うだろうが、観るもの誰もが、どこかのシーンでノスタルジーを感じるはずだ。
原作と違う箇所や、時代考証してディテールが間違っているなどと突っ込むのは野暮。この作品、本当は「東京」や「下町」というよりも「全国にあった昔の街並み」の再現をしたかったのではないかと思う。つまりそれは、どこに住んでいようとも、どの世代の人でも、日本人のDNAにも刷り込まれている「日本らしさ」なのではないだろうか。

俳優陣もいい演技をしてくれる。とくに女優たち。薬師丸ひろ子の演技はすでに安定感がある。小雪も素敵な笑顔を見せてくれる。堀北真希は今放送中のドラマでもいい雰囲気を出しているが、期待のできる新人だと認識させてくれた。

一つ残念な点。特殊効果・VFXをふんだんに使っているのだが、使いすぎて落ち着かない。CGとしては悪くないが、もう少し重みのあるカメラワークにして欲しかったと思う。

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僕が生まれるより10年近く前の設定だが、原体験として記憶している懐かしさが郷愁を誘う。

よく「古き良き日本」という。この映画でも宣伝文句にさんざん使われている。
実際にはそれほど良かったのかどうか、難しいところである。
この作品に出てくるエピソードで言えば、「親が子どもを捨てる」なんてことがよくあった時代だ。「家族の借金のために身売りする」なんてことだってそうだし、「人さらい」もいた。まだまだ「戦争の傷跡」が残っている。洗濯機や電機冷蔵庫もないような「貧乏」に戻りたい、なんて人はいないだろう。
しかし、それでもなお「古き日本」には、そういう社会の暗い部分を包み込んでしまうだけの包容力があったのではないだろうか。そこには、今よりも明るさや未来への夢を持って一所懸命に生きていた日本人がいたのではないか。そしてその包容力は、まるで自分を包み込む大きな手のように暖かった気がするのだ。

この映画は、そんな暖かさで僕を包んでくれた。久しぶりに心の安まる日本映画だった。
僕はいつ頃から、自分が暮らしている町の夕日を観なくなったんだろう……

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【作品名】ALWAYS 三丁目の夕日('05/日本/132分)
【監督・VFX・脚本】山崎 貴
【原作】西岸良平
【共同脚本】古沢良太
【出演】吉岡秀隆/
    堤真一(『MONDAY』'00)/
    薬師丸ひろ子/
    小雪(『ランドリー』'01)/
    堀北真希
※人名後ろのカッコ内は、その人の関連作品の中で比較的最近のお薦め作品
【公式サイト】http://www.always3.jp/
【僕的評価】★★★★★★★☆☆☆

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