泣いてくれるな、おっかさん(映画「マラソン」を観て)
※ 未見の方は要注意! ※
自閉症(もしくはそれらしい障害)をテーマに取りあげた映画は、これまでも撮られてきた。『レインマン』('88)、『フォレスト・ガンプ/一期一会』('94)、『I am Sam アイ・アム・サム』('01)が、よく知られているところだろう。
日本でも昨年、篠原涼子が母親役を演じて好評を博した『光とともに…』というテレビドラマで、自閉症について、家族や学校の一所懸命な取り組みを見事に描いている。
自閉症の人は基本的に自立して生きることが困難であるために、自閉症を取り扱った作品では、その家族の視点、家族の苦悩などを中心に話が展開していく。前述の映画作品でも、『フォレスト・ガンプ/一期一会』のように超人的ファンタジーは別として、他の2作品はそれぞれ、弟、娘が、主人公以上に大事な役どころとなっている。
韓国で500万人を動員したという『マラソン』は、自閉症の若者とその母親を中心にストーリーが展開され、彼がフルマラソンを完走するまでの物語。
2002年、19歳でチュンチョン国際マラソン大会に出場し、自閉症という障害があるにも関わらず健常者でも困難といわれるフルマラソンを2時間57分で完走した青年の実話をモデルにして作られた作品である。
僕の両隣の女性が、中盤から泣きっぱなし(会場もすすり泣く声や鼻水をすする音が響いていた)。よくもこんなに長く泣き続けられるものだと感心してしまったが、たしかに泣き所はある。
ある時、主人公の母親キョンスク(キム・ミスク)が、胃に穴が空き激痛に倒れ入院する。その病院のベッドで、何年も前から関係が悪化している夫に対して、自分の弱さを隠さずに独白する。
「自分の思いを勝手に押しつけてマラソンをさせてしまった」
「あの子は私に捨てられるのが怖くて『つらい』と反抗することができない」
このシーン、二人の子どもを持つ親として、思わず目頭が熱くなってしまった。
我が子に対して自分の思いを押しつけすぎたのではないか、というのは、自閉症の子供を持った親だけでなく、子育てを経験したことのある親ならば誰もが一度は思い悩むことである。キム・ミスクの演技は、そんな世の母親たちの涙腺を思い切り刺激するだろう。
監督と脚本のチョン・ユンチョルは、本作が長編監督デビュー作だ。映画としてはかなり粗い部分もあるが、所々に散りばめられた明るい描写と感動が、そんなことはかき消してくれる。
この映画を見ようと思っているお母さん方、涙と鼻水で顔がクシャクシャになることを覚悟して行ってください。

【作品名】マラソン(marathon/'05/韓国/117分)
【監督・脚本】チョン・ユンチョル
【出演】チョ・スンウ
キム・ミスク
イ・ギヨン
【公式サイト】http://www.marathon-movie.com/
【公開】2005年7月2日、丸の内ルーブルほか全国松竹・東急系にてロードショー
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