“ディープ・スロート”の真相解明(アラン・J・パクラの映画作品)
1972年、時のアメリカ大統領ニクソンが、自分の落選を怖れて相手候補の事務所に侵入し盗聴しようとしたことにより、アメリカ史上唯一の大統領辞任という事態にまで及んだ「ウォーターゲート事件」が世界中を騒がせた。
このアメリカ最大の政治スキャンダルを世間に披露したのは、ワシントン・ポスト紙の駆け出し記者だったボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインという2人組。彼らは“ディープ・スロート”という匿名の人物から情報を得て、スクープを連発したのだ。この事件の追及により、「ジャーナリズムが権力の不正をただす力を持ち得る」ことを実践した2人は伝説的な人物となった。
一方、事件後30年経った今まで、「死ぬまで話さない約束」として2人は頑なに“ディープ・スロート”の正体を明らかにしなかった。そしてその正体は、様々な憶測が流れる中、ケネディ暗殺の真相と同じようにアメリカ政治史の謎とされてきた。
ところが、先週突然、その“ディープ・スロート”の正体が明らかになったのだ。事件当時の現役のFBI副長官W・マーク・フェルトが「自分は“ディープ・スロート”である」と家族に語り、ウッドワードとバーンスタインもそれを認めたのだ。今週のアメリカのマスコミでは、最大の話題だったようである。
さて、そのウォーターゲート事件で“ディープ・スロート”が暗躍することを描いた作品が、『大統領の陰謀』('76)である。この映画によって、事件を追及したジャーナリストたちの活躍ぶりを知った人も多いだろう。
この作品の監督アラン・J・パクラは、社会派サスペンスを描かせたら一級品の監督だ。
『コール・ガール』('71)のジェーン・フォンダや『ソフィーの選択』('82)のメリル・ストリーブが、パクラ監督作品に出てオスカーを獲得したように、女優を上手く活かす監督でもある(『くちづけ』('70)のライザ・ミネリもノミネートだけとはいえ素晴らしい)。
しかし、やはりサスペンスをよく知る監督であり、過度な演出ではなくストーリーや場面展開だけでハラハラドキドキさせてくれる。『推定無罪』('91)は、法廷サスペンスが大好きな僕が、ベスト法廷サスペンスの1本として挙げる作品だ。またジョン・グリシャム原作の『ペリカン文書』('93)は、“ディープ・スロート”のネタをオチとして使っていて、往年のパクラファンを喜ばせてくれる。
ハデな監督ではないので、最近の若い人にはあまりウケがよくないようだが、展開だけで成立させることこそ本来のサスペンスの醍醐味と言えるだろう。また、時代時代のアメリカ社会の側面を上手に描いている作品が多い。
DVDやビデオ、テレビ放映などでバクラ作品を見かけたら、ぜひ一度、パクラ作品を堪能してほしい。

【監督名】アラン・J・パクラ
【同監督オススメ作品】
※作品名をクリックするとキネ旬のデータベースにジャンプします
『くちづけ』('70/ライザ・ミネリ)
『大統領の陰謀』('76/D・ホフマン、R・レッドフォード)
『ソフィーの選択』('82/M・ストリープ主演)
『推定無罪』('91/H・フォード主演)
『ペリカン文書』('93/J・ロバーツ、D・ワシントン主演)
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