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当代随一 見なけりゃ損々
(歌舞伎座「五月大歌舞伎」)

エンターテインメントを楽しむ上で、「いま生きているからこその感動」というものがある。
その時代の最高のエンターテインメントを体感することは、何ものにも代え難い感動を享受させてくれるのだ。映画も含め、エンターテインメントはやはり「ナマモノ」であり、いくらAV設備が発達しようとも、その時代時代の感動までは後世に伝えきれない。だからこそ、エンターテインメントをLIVEで体感し感動することは、その時代に生きている最高の喜びの一つなんだ、と僕は考えている。

勘九郎改め中村勘三郎の襲名披露「五月大歌舞伎」(夜の部)を歌舞伎座で見た。

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第一部 「義経千本桜」川連法眼館の場——
「平成三之助」の三人に、「昭和三之助」の一人である菊五郎が加わった舞台である。歌舞伎興行を取り仕切っている松竹が、つねにスター役者として歌舞伎界の中心に置き続ける役者たちの共演だ。
若い女性に人気の「平成三之助」も、当代の菊五郎(映画女優・寺島しのぶの父親と言った方が通りがいいか?)にかかっては、彼の引き立て役となってしまう感は否めない。しかし、将来、この「平成三之助」たちが歌舞伎界を引っぱっていくことは、松竹が歌舞伎興行を取り仕切っている限り決定されていることである。その「三之助」たちの若き時代の揃い踏みを見ておくというのも、歌舞伎ファンにとっては「当代随一」の楽しみ方である。特に、将来、市川團十郎を継ぐべき海老蔵は、当代の若手役者の中では、役者としてのスケール感が群を抜いている。実はあまり好きな役者ではないのだが、こうした若い役者が育っていくのを楽しみにすることも、歌舞伎の醍醐味なのだ。
個人的には、「菊五郎型 四ノ切」を見られたことも満足の作品となった。

第二部 「鷺娘」——
玉三郎の女形による一人舞踊は、まさに「当代随一」だ。
玉三郎の何が素晴らしいって、その仕草、立ち居振る舞い、すべてにおいて色気がある女形である。日本舞踊において手先の美しさは重要な要素だが、玉三郎は、手ぬぐいをひょいと持つときに立つ小指まで美しい。いや、小道具として何気なくまわす傘の骨や、苦しむ鷺を演じる際の着物の裾まで、色気立っているのである。まさに爪の先まで色気の感じる、当代切っての女方といえる。玉三郎は女形としては身長が大きくなりすぎてしまい、仁左右衛門以外の役者との組み合わせでは美しい娘役をやることも少なくなってしまったのだが、一人舞踊なら思う存分“玉三郎らしさ”を発揮することができる。今日の演目「鷺娘」だけでなく、「藤娘」「娘道成寺」など、玉三郎の一人舞踊を観る機会があれば、ぜひお薦めする。

それにしても、先月も今月も、勘三郎の知名度を最大に使った「歌舞伎役者の見本市」のようなキャスティング。松竹の戦略にまんまと乗せられて高いチケットを何度も買わされるのは癪にさわるが、こうした豪華な顔ぶれを楽しむのも「襲名披露」ならでは。やっぱり楽しい。

第三部 「野田版 研辰の討たれ」——
2001年に歌舞伎座で上演され、歌舞伎界だけでなく演劇界全体で大絶賛された舞台で、勘九郎改め勘三郎の襲名披露として、再演されることになった演目である。1980〜90年代における小劇場ブームの中心的な演出家である野田秀樹による脚本・演出の新作歌舞伎だ。前回は残念ながら見ることができず仕方なくDVDで我慢していたのだが、ようやくLIVEで見ることができた。
新・勘三郎は、「鏡獅子」や「高坏」などの舞踊も「当代随一」といえるが、やはり「お調子者の江戸庶民」を演じさせたら、いま生きているどの歌舞伎役者たちも並ばないほどである。まさに「当代随一」だ。先月の歌舞伎座も襲名披露として別の演目興行だったが、先月に比べて勘三郎がのびのびとしており、だからといって、このところちょっと気になっていた「悪のりしすぎ」ということもない。今月の勘三郎は、昼の部も夜の部も、まさに大名跡に相応しい“役者ぶり”であり、間違いなく“後世に残る勘三郎”だ。
また、アンガールズ、波田陽句など若手お笑い芸人のギャグや、ワイドショーで話題となっている獅童の結婚話を取り混ぜたり、先月上映された映画「真夜中の野次さん喜多さん」の“金髪の喜多さん”を七之助本人に演じさせて登場させるなど、普段、歌舞伎に慣れていない若い人たちも十分に楽しませてくれる構成になっている。
この演目で何よりも「当代随一」なのは、野田秀樹の演出である。舞台演出、音響、照明、どれをとっても斬新な演出で、DVDで見た前回の「研辰」から一昨年の「野田版 鼠小僧」を経て、格段と洗練された演出となっている。「野田版 鼠小僧」でも感じたが、子どもの頃から歌舞伎座の舞台を見続けている中で、これほど歌舞伎座という舞台を上手く使った演出家は他にいない。勘三郎が積極的に現代舞台の演出家たちを歌舞伎に取り入れた最大の効果である。この後、7月の大阪・松竹座でも「研辰」は上演されるので、見られる人は必見である。


久しぶりに最初から最後まで楽しんだ歌舞伎興行だったために、いつもにも増してずいぶんと長くなってしまったが許してほしい。残念ながら2日後には楽日となってしまうので、これから見ようと思ってもなかなか見ることはできないかもしれない。何と言っても人気興行であり、チケットの入手も難しい。基本的に1階席でしか見ないことにしている僕も、真ん中とはいえ2階5列目という席しかとれなかった程である(しかも、そんな悪い席でも20000円!)。しかし、歌舞伎の世界には、まだまだ「当代随一」として、最高の感動を与えてくれる演目があり、素晴らしい役者たちがいる。

歌舞伎を別次元のエンターテインメントと考えている人も、「当代随一」を味わうことによって、ぜひ「いま生きているからこその感動」を体感してもらいたいと思う。


【興行名】十八代目中村勘三郎襲名披露
     「五月大歌舞伎」(夜の部)
【出演】中村勘三郎
    尾上菊五郎/尾上菊之助/市川海老蔵/市川佐團次/
    坂東玉三郎/中村福助/中村橋之助/市川染五郎/
    中村勘太郎/中村七之助/坂東三津五郎/ほか
【公式サイト】http://www.kabuki.gr.jp/


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